バウンス・ベイビー!

「藤の妄想癖が育ったのは大学生活のせい?それとも元々?何だったっけなあ・・・。えーっと・・・そうだ、『お前は俺のものだ。だから―――――』だっけ」

 へっ!?

 私は仰天して目をカッと見開く。ちょっとずつでも確実に近づいてくる平野に圧倒されて、私はいつの間にやら壁際へ。右足のかかとが壁にぶつかって、背中がべったりと壁についたのが判った。

 ちょっと待って待って!あれ?今、今この男が言ったセリフ、何かの引用だよね?そんな間があったよね?それでもってそれでもって・・・私は、それを、知ってるような―――――――・・・。

 こうだったな、そう呟いて、平野が片手を私の顔の横の壁につける。見下ろされる形になった私。それも壁際で。ええっ!?これってこれって・・・。

 うっすらと笑いながら、平野はそのままで少しだけ首を傾げた。

「これが所謂‘壁ドン’ってやつだろ?それから何だったっけかな・・・確か」

 私も頭の中で反芻する。確か、こんな場面で次にくるセリフは―――――――――――

 私はゆっくりと近づいてくる(ように見えた)平野の顔を凝視しながら、金縛り状態で考えた。それから口を開けて――――――平野の言葉と、見事にハモった。

「「『それを判らせてやる』」」


 ・・・私の小説のセリフだ――――――っ!!!


 その考えが頭ではじけた瞬間、覚醒した私はその場でざざーとしゃがみ込む。真下へと勢いよくずり下がって、冷たい床にドンと尻餅をついた。お尻に結構な痛みを感じると同時に四つんばいで疾走する。部屋の真ん中へ。

「・・・早い」

 まだ壁に手をついたままで、平野がぼそっと呟いたのを聞いた。


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