バウンス・ベイビー!


 無言で作業する高峰リーダーと田内さん。たまに言葉はかわすけれど、それも業務内容だけ。私語は厳禁では勿論ないが、彼らは元々付き合いのいい人たちではない。浜口さんと私がひそひそ喋っているのを咎められるかも、と思ったけれど、今のところは大丈夫そうだ。だけどせめて作業スピードだけは遅れないようにと、私は身を屈めてせせりを串刺しにしていく。

「読んだらしいんですよ。昨日、私が忘れた給料明細をリーダーの言伝で持ってきてくれたんですけど・・・その時に言ってました」

 私の眉間に皺がよったらしい。浜口さんは包丁を使う手を止めて、あら、と呟く。

「・・・面白かったって?」

「いいえ」

 再び怒りがわいてくるのを感じたけれど、踏ん張って無視をした。

「やりたくても出来ない私の秘められた欲求を文章にして不満を解消している、と思ったようですよ。面白くしようと思って取り込んだ‘壁ドン’をからかわれた上に体験させられましたし、題名についても思うところがあったようで!」

「あらま!題名についてまで?・・・それはそうと、千明ちゃん、壁ドンって何?」

「え」

 私は一瞬目を瞬いて、それから一人で頷いて説明した。

「ほらほら、あるでしょ、最近流行りでドラマとかでもやってるじゃないですか。男の子が女の子を壁におしつけて逃げられないようにする、あれ」

 ああ!と浜口さんが顔を輝かせた。

「あれね!壁ドンって言うのね、へえ~。・・・えっ!?で、それを平野君がしたの?あなたに?」

 私は重々しく頷く。


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