バウンス・ベイビー!
3、タイフーンベイベー

・未体験の嵐・


 焼き鳥屋の繁忙期は寒い時期だ。しかも、ただの焼き鳥屋ではなく居酒屋というバックがつくので、湯豆腐や熱燗やおでんなどを求めてたくさんのお客さんが店へと吸い込まれていく。

 有難い。それによって私達はお金を頂くのだから。だけど、仕込み担当の私達は料理に舌鼓を打つお客さんの笑顔や美味しいよ~!って素敵な掛け声などは聞けない。

 ただ寒くてだだっ広い作業場で黙々と鶏肉を串刺しにしていくのみなのだ。

 つまり、達成感がさほど感じられない為に、心が折れる機会が多い。

「うえ~・・・。まだ終わらない」

 珍しく、田内さんが弱音を吐いた。

 この人はいつでも黙ってさくさくと仕事をこなしているのに、作るんじゃなくて食べたいよ!っていうセリフ以外の苦情というか弱音は、久しぶりに聞いた。

 私だけでなく、高峰リーダーの耳にも届いたらしい。

 うしろではいつものように、パートのおばさま達の井戸端会議が滔々と流れているけれど、それでも耳に飛び込んできたのは田内さんの呟きだった。

「そっちもまだかかりそうか?俺も終わりがみえねー」

 うんざりした声でリーダーがそう言って、私も自分の担当ビニール袋を見下ろしてため息をついた。

 本当~にこんなに食べるのか?そう聞きたくなる量だよ、マジで、これちゃんと食べられるの?食べてよちゃんと!勿体無いから!

「これから忘年会も入るしな~。判ってると思うけど、休み返上も1回や2回はあるぞ。宜しくな~」

 リーダーのその一言に、本気で凹みそうだった。私と田内さんが二人で重いため息をつくのをみて、リーダーがぎゃあぎゃあ喚く。




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