バウンス・ベイビー!
仕事はようやく覚えてきた、といえるレベルなのだ。人に教えたりするほどに上達しているわけではない。まだ包丁さばきも危ういし、よくリーダーに注意されている。それに現に、今の作業場でも串刺しが一番遅いのは私だし―――――――――
電車で3駅向こうの一人暮らしの部屋へ帰るまで、私はこの夜の自分の軽率な一言を後悔していた。
一人暮らしもようやく慣れてきて、最近では寂しく感じることが少なくなってきた部屋に帰ると、まずはと私はパソコンの電源を入れる。
立ち上げを待っている間に鞄をおき、洗面所にいって手洗いとうがい。何せ食品会社に勤めているのでうがい手洗いはきっちりと敢行している。そのお陰が入社してからは一度も風邪を引いていない。
ついでに洗面所で化粧を落としてセミロングの髪をまとめ、次に向かった台所では真っ先に冷蔵庫からビールを出す。
これも一人暮らしでないと出来ないことだ。実家にいたらまず間違いなく母親を怒らせる行動。こら!いきなりアルコールなんて何してるの千明!て声まで聞こえるようだ。
だけど化粧も落として部屋着に着替え、さっぱりとしてからおもむろにビールを飲む。これが至福の時間なのだ。一日中立ったままで生肉を串刺しにしていて、帰ったときに違う世界へときたのだぞ、と自分を納得させる儀式。そう思っていた。
「あ~!美味しいっ!生きてるわー私!」
それからようやくパソコンの前に座り、メールチェック。SNSはあまりやっていないけれど、登録してあるいくつかのサイトもチェックする。
それから――――――――
私はパソコンの前で一度ゆっくりと大きく伸びをしてから、よし、と気合を入れた。