バウンス・ベイビー!


「そんな顔するから・・・弄りたくなるんだよ」

 ―――――――はい?何だって?

「何?」

 平野がまた一歩近づいた。今や彼は私のすぐ目の前に立っていて、それは数日前の‘壁ドン’を彷彿させる。だから私は反射的に一歩引こうとして――――――――腕を掴まれた。

「アタリなんだな。藤はまだ、経験がない」

「ちょっと」

「キスは?それもない?だからあんな淡白な書き方なのか?」

「平野、待っ―――――――」

 平野は待たなかった。掴まれた腕を引っ張られて、私にぐんと近づくと、そのままで唇を押し付ける。物凄く近くに平野の伏せた瞼を見詰めながら、私は目が零れ落ちるのではないか、と思うくらいに見開いていた。ガチガチに体を固めて。

 冷たい唇。その感覚にハッとした。ちょっとこれって、キス――――――――――

 少しだけ顔を離して、平野がボソッと言う。

「ちょっと口あけて。唇が触れたら、舌も出すんだ。・・・ゆっくり」

 はい?ちょっと、もしもし?

 そんなことを思っている私の口は、また塞がれる。それから平野の舌が、早く開けろと生き物みたいに刺激を送ってきた。それは温かく、驚くほどに柔らかい。こんなに―――――こんなに人間の唇って柔らかいんだ・・・。

 私は未だに混乱したままだったけれど、さっきの平野の言葉が頭を回っていた。

 唇が触れたら舌を出す。


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