バウンス・ベイビー!
夜、パソコンの前で私は座っている。
指を動かしてキーボードを優しく打っていく。カタカタと鳴る音が部屋の中へ広がって、私はそれを聞いている。
『美春の思考は停止して、急に湧き上がってきた熱に流されるようだった。隼人は舌を絡まらせる。音を立て、生き物のように動いて、美春の唇を更に柔らかくしていく』
どんどん書き足した。一度公開している箇所だけど、ここが大事だというのはわかっていた。そして、ついに経験してしまったのだ。ならば書かなければ。あの状態を。体が熱をもつのとか、目が勝手に潤みだすのとか。
暗い部屋の中、パソコンの青い画面とそれに浮かび上がる私だけ。つけっぱなしのストーブと、隣の部屋の住人の生活音。キーボードを打つ音、それから床に転がった缶ビールの空き缶。
エンターキーを押して、私の指は止まる。
暫く書いた文章を読み直して、更新ボタンを押した。頭の中で平野の声が蘇る。
――――――――これで書けるだろ、濃厚なキスシーンが。
平野は、満足してくれるだろうか。
押し付けられた唇の温かさと柔らかさをまだ覚えている。唾液でベタベタになった口元が、風に当たって冷やされた感触も。
あんなに焦がれた人が私を引き寄せてキスをしたという事実を、まだ消化できていなかった。
もうちょっと。
もうちょっと経ったら、きっと理解出来るはず。
そして多分大いにパニくって―――――――――それから私はどうなるのかな。
笑うのか、泣くのか、絶叫するのか。
まだわからない。
この二日で未体験のことがやってきたのだ。初忘年会と、初キス。それも彼氏でもなく、現在避けようと頑張っている男と。
暗闇の中、温かめられた部屋の隅っこで、ごろんと転がった。
パソコンはつけっぱなしのままだった。