バウンス・ベイビー!
凄く凄く寒い日で、あの日は確か、平野が大学の合格報告を担任にしにいく日だったはずだ。クラスごとに報告の日が違っていて、私は予めその日程を調査済みだった。平野が合格したってことも知っていた。だからその日に学校へくるってことも。
だから待ち伏せたのだ。
ずっと追いかけていた背中に向かって、呼び止めるために。初めてちゃんとした深い話をするために。
「で」
「で?」
田内さんに向かって私は苦笑した。
「見事に振られたんです。悪いけど、俺は藤に興味を持てないって。これきりにしてくれ、声をかけるのも。そう言われました。それで私の気持ちはぺしゃんこになって卒業になり、急いで滑り込んだ違う大学に入ったんです。同窓会もいきませんでした。だからここで平野に会って――――――――」
「まあ、そりゃあ動揺しまくるわけだよね」
田内さんが引き取って言った。もう10分前だ。田内さんは立ち上がって帽子を手に取る。
「・・・僕にはそんな経験がないから・・・うまく慰められないけど。とにかくよく判ったよ。最初に平野君が来た日、あの時の藤さんは凄かった。あれだけ焦った人間を見たことがなかったから、ちょっと驚いてたんだ。とにかく今日は作業台換わるから。秤は同じだから僕のを使って」
「ありがとうございます」
私は椅子に座ったままで頭を深深と下げる。
作業場へ行こうとしてドアをあけ、あ、と田内さんが振り返る。
「それに、今の話は誰にも言わない。高峰さんに脅されても」