バウンス・ベイビー!
機嫌がよくないのかな、そんなことをちらっと頭の隅で考えた記憶がある。引き結んだ口元や細めた目に。でも私は一人で興奮してしまっていて、もう体全体で鼓動を感じるほどだったから気にならなかったのだ。
他にも来ていた合格報告をした生徒達が傘をさして早足に通り過ぎていく。わいわいと皆嬉しそうで楽しそうで、通り過ぎて行くその笑顔たちに勇気を貰って、ついに私は言ったのだ。
『知ってると思うけど・・・ちゃんと言ったことなかったから。あの・・・私は、平野が好きです』
もう顔はきっと真っ赤だっただろう。ほとんど相手の目なんて見れないで、ひたすら平野の襟元をみつめ、私は早口で言葉を押し出す。
『一緒の大学は落ちちゃったんだけど、でも・・・付き合ってくれないかな、わ、私と』
鼓動が激しすぎて平野に聞こえるかと思うほどだった。だけど雪のせいで、他のほとんどの音は吸い込まれて消えていく。私は緊張して、手をぎゅっと握り締めて、全身を耳にして立っていた。
平野のいい返事を逃さないように。
きっと照れた顔で頷いてくれる。平野なら、きっと恥かしそうに眉毛を寄せて――――――――・・・
だけど、結構な時間を空けて聞こえてきたのは、想像した言葉ではなかった。
『悪いけど』
平野は掠れた声でそう言った。
私はハッとして顔をあげ、そこでようやく平野の顔をじっと見た。さっきと同じ、細めた目に結んだ口元。相変わらず機嫌は良くなさそうな。
照れた顔じゃ、なかった。
『俺、藤には興味がない。もうしわけないけど声をかけてくるのもこれきりにしてくれ』