バウンス・ベイビー!
瞬殺されたのだ、私は平野に。あんな完膚なきまでの潰され方をしたのに、どうして今こんなややこしいことになってるの!?本当に!
今日は一度も平野のことを見ないままで、無事に夕方まで済んでいる。お昼も外へと出たし、接触は皆無だった。今は大量の手羽先をさばいていて、幸運なことに今日の仕込みはこれで終了。元々仕込みの量も少なかったけれど、誰も喋らない本日は皆が作業に集中したのかもしれない。これだったらかなり早く上がれそうだった。
「そっち、もうすぐ?いくらか手伝う?」
田内さんが体を捻ってそう聞いてくれる。私はちらっと彼の方を見て、首を振った。
「いえ、大丈夫です。あと10羽で終わりますから、そちら終わったなら片付け入ってください」
「了解。北浦さんはどうですかー?」
「こっちももう終われますよ~」
田内さんは順番に確認して、最後の平野で手元をみて、ヤツの仕事を半分奪ったようだった。私はまた平野の口元を凝視しそうになって、慌てて手羽先へと視線を戻す。時刻はまだ5時半。パートさん達も余裕で勤務時間を守れるだろう。
私は新たな手羽先をまな板にのせる。専用の大きくて重い包丁で骨を断ち切って肉を開き、焼きやすい形に整えていく。骨を断ち切るときに力がいるのでいつもは高峰リーダーや田内さんがやってくれるのだが、タイミングが良かったので引き受けることにしたのだ。
包丁を押さえつける手が痛みだした。
だけど過去の世界へと戻って、がっつりと思い出してしまっていた私には、今はどんな痛みも効かないような気がする。
あの時の痛みに比べれば。