本を片手にあなたと恋を
「うん。お願いします。」
頼みながらも、その本のタイトルがやっぱり気になる。
覗き込みたい衝動を抑えて、本人に訊いてみた。
「何読んでるの?」
拓海は、少し迷って答える。
「秘密。」
「何で!?」
なんか、気になる。と食い下がると、拓海は諦めたように言った。
「そんなに気になるなら、見れば?」
好奇心に負けて、本を手に取る。
タイトルを見て、驚く。
“ひとかけらの魔法”
「この本、前に借り損ねたやつ。」
美桜は、少し興奮ぎみに叫ぶ。
「へー、何で借りれなかったの?」
拓海に訊かれて始めて余計なことを言ったな、と自分で思う。
「それは、えーっと秘密?」
拓海に話しかけられて、焦って返しちゃいましたなんて、恥ずかしくて本人には言えないから、さっきの拓海の真似をしてみる。
「ふーん」
と言って歩きだした拓海から目をそらし、作業をはじめる。
ボックスの中には、それなりに本が積み上がっていた。
その一冊を手に取り、バーコードを読み込む。
出てきた画面をクリックし、返却完了。
手元の本を置くと、次の本が差し出された。
「ありがとう」と見上げるとと、「ん、」とだけ答える拓海。