本を片手にあなたと恋を
数人の女の子がおしゃべりしながら、本を返しに来て、それが今日最後の来客だった。
返却作業が終わり、机の本を番号順に大体並べると棚に戻し始める。
終わった、そう思った瞬間、
「よし、」
という声が聞こえてどうやら拓海も本を戻し終わったようだ。
カウンターに先に戻ったた美桜は、先週に続きをしようと引き出しから画用紙を取り出す。
「何するの?」
また、隣に腰かけた拓海が訊ねた。
“あ行”や、“文庫”などと書かれた画用紙を掲げて見せる。
「文庫棚用のやつなの。」
図書室は、綺麗に整備されていて、ほとんどの棚でこういった表示がされている。
でも、文庫用の回転本棚は順番に並んでいない。
くるくる回っちゃうし、並べにくいんだけどせっかくだから並べ直してしまおうかと思っているのだ。
「“な”ってバランスが難しい。」
とかぶつぶつ言いながら作業をしてると、
「この画用紙は、切るの?」
いつのまにかに、ハサミを構えた拓海が尋ねる。
「あぁ、うん。同じサイズで。」
ナチュラルに答えてからはっと気づく。
「あ、待って。これ、私が勝手にやってるだけだから仕事じゃないよ。先輩とかは、棚の整理とかだいたい終わったら本読んでるみたいだし。好きなことしててね?」
美桜は一気に捲し立てるようにそこまで言うとふぅと息をついた。
「ん。」
拓海は相づちを打ちつつハサミを動かす手を止めない。
「あのー?」
今、言ったこと聞いてた?
という意味を込めて伺うと、
「好きなことしてるんだけど?」
としれっと、見返される。
ズルい。
ちょっと意地悪な笑顔にドキリとした。
「あ、ありがとう。」
「それとも、本棚の整理しといた方がいい?」
「いや、それは私もするから。いつも飽きてきたら整理してる。」
金曜日は部活もないし、時間あるからのんびりしてる。
放課後の図書室でゆっくりできるのも図書委員の特権と思う。