本を片手にあなたと恋を
急いで階段を降り、外に出る。
中庭と言うほどではないかもしれないが、コの字型の校舎の真ん中には、丸く花壇が並んでいる。
拓海と和樹は、そこに腰かけてお弁当を食べていた。
「拓海!」
どうやって声をかけようかとドキドキしながら歩いていると、真央が大声で拓海を呼び、スタスタと歩いていった。
美桜も真央を追いかける。
「真央、佐々木さん。おはよー!」
和樹がにこやかに言った。
「もう、早くはないと思うけど。」
という真央の呟きを聞きながら美桜も笑って答えた 。
「おはよう。宮藤くん、鈴木くん。」
そして、拓海に本を差し出す。
「この本、ありがとう。返したかったから。」
「あぁ。金曜日でもよかったのに。」
美桜は、その言葉に衝撃を受けた。
そっか、そうだよね。金曜日に返せば良かった。
読み終わってからは早く返したいってばかり考えていた。
黙ったままの美桜に拓海が続ける。
「どうだった?」
「とっても良かった。金曜日のうちに読んでそれから2,3回読み返しちゃった。この世界観本当に好き。」
そのまま、語りだしそうになった美桜は真央と和樹の存在を思い出して我にかえった。
「わわわ、ごめん。つい。というか、二人食べてる途中だよね。もう戻るね。じゃあ、また。」
そこまで言うなり真央の手を取り、ほとんど走るように歩きだした。
「にやけてる。」
拓海が美桜と真央が歩き去るのをみていると、和樹が言った。
「誰が?」
不快そうな顔で和樹を見る。
「拓海。」といわれた瞬間否定した。
「にやけてない。」
「いや、絶対にやけてた。」
「笑ったのは認める。でも、にやけてはない。」
「いや、笑ってるだけでも怪しい。」
なにがだよと思いつつも、拓海は答える。
「面白かったから。」
「え、そんな面白いことあった?」と尋ねる和樹に心のなかだけで
『佐々木、今日も逃げた。』
と小さく笑った。