本を片手にあなたと恋を
「美桜ー? こんなにに急がなくても良かったと思うな。」
相変わらずの小走りで階段をかけ上り屋上まで戻ってきた。
「あ、ごめん。」
「気にしないで。でもさ、私には教えてくれてもいいじゃん。」
「何を?」
「もー、好きなんでしょ。拓海のこと。」
覚えのある展開に、クエスチョンマークが浮かぶ。
「違うよー、どうしてまた? 」
「あんなに、楽しそうに男子と話してるの初めてみたよー?」
「ついに、美桜に彼氏が。」なんて一人で感慨深げに呟く真央。
「真央、待って。戻ってきてー、妄想から。」
初デートがどうとか呟き始めた真央を現実に引き戻す。
「私、わからないの。恋とか、好きとか。鈴木くんと一緒にいるのは楽しいけど、それが恋かもわからないよ。」
「そっか。ごめん、はしゃぎすぎた。美桜は美桜のペースでいいと思う。」
「ありがとう。でもね、本当に鈴木くんと話すの楽しいの。今まで、あんまり誰かと本の話したことなかったけど、誰かと本の話ができるっていいなって思った。あとね、」
ちょっと恥ずかしそうにつけ加えた美桜に真央は、もう一度「そっか。」と言って微笑む。
“それって、もう既に好きってことだと思うんだけどなぁ。”
その言葉を飲み込んで。
『あとね、鈴木くんに借りてた本を読んでたとき思ったの。
鈴木くんと同じ本を読んでる、そう思うだけでこんなにドキドキするんだね。
どんな顔をして読んでたんだろうとか、どんなこと考えてるのかなって考えるだけで楽しいの。』