本を片手にあなたと恋を



もう一度、すみませんといいながら肩を叩かれて初めて美桜は自分に向けられた言葉であったことに気づき、振り返った。


「そこの本、とってもいいですか?」



そこにいたのはカウンターにいたはずの彼だった



鈴木くん…!



慌てて避けながら、美桜は無意識のうちにそう呟いていた。


拓海は不思議そうに美桜を見つめた。



「ごめん、知り合いだっけ?何で俺の名前知ってんの?」



想定外の事態に美桜の脳内はパニック状態だ。


接点ないのに、名前知ってるとか。もしかしなくても、私怪しい?


誰かが呼んでるのを聞いたとか、友達が前話していたとか適当なことを言えばよかったのだろうが美桜は正直に答えてしまった。



「あの、私、図書委員で返却作業してたときに、えっと、私の好きな本を…。」



しかし、その美桜の言葉のほとんどは幸か不幸か彼には届かなかった。



「あぁ、もしかして君も図書委員?」


拓海は美桜の言葉を遮っていった。



え?



「前回の委員会は休んでたけど、1組の図書委員だから、よろしく」


自分の驚きに気づいていない様子の拓海の笑顔になにも言えない美桜。



「誰か、他の図書委員に聞いたんだろ?」



彼の勘違いは、あえて否定しないでおこう。そう決めた美桜は、ぎこちない笑顔で頷いた。




「では。」



とかなんとか言って美桜は慌ててその場を後にした。


教室の自分の席まで戻ってほっと息をつき、初めて本を借り損ねたことに気づく。


声をかけられたときに慌てたあまり、本を棚に戻してしまったようだ。


笑うと印象変わるんだな。


さっきの笑顔を思い出す。


勝手に大人っぽいと思っていたけれど、柔らかい笑顔だった。














「なんか挙動不審。」

美桜が去ったあと、拓海はそう呟き少し笑って一冊の本を手に取った。






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