本を片手にあなたと恋を
苦し紛れの一言は意外と効果があったようだ。
「そんな、ことはない。」
と言う和樹はほんのり赤い。
「早く彼女作れよ、お前も。」
「彼女できたからって強気だな。」
自分で言った彼女という言葉が和樹の言葉で急に現実感が出て照れくさい。
でも、和樹にはにっこり笑ってこう言ってやった。
「当たり前だろ、俺の彼女かわいいから。」
「お前…、ムカツク。もう、お幸せにって感じ。」
ムカツクとか言いながら、しっかり祝福してくれるところが和樹らしい。
「それに、俺だって彼女作りたくないわけじゃない。って言うか作りたいって思ってるよ、ずっと。」
話す調子はいつもと変わらないままなのに、呟くような一言は切なげに響いた。
「じゃあ、コクっちゃえば?和樹にコクられて振るやつそうそういなさそう。」
「そう?だといいのに。でも、あいつは多分違う。」
「ふーん?あいつねぇー。初耳なんだけど?」
「何のこと?」
まるで、先ほどの会話が無かったかのような顔で聞き返される。
「いやいや、好きな人いるってことだろ?俺、今、初めて聞いた。」
「あ、そろそろ帰んないと。今日、俺が昼ご飯作るって言ったから。」
と、立ち上がってそそくさと部屋を出ようとする。
「は? 待てってば。」
「俺のかわいい妹が待ってるから。じゃあね。」
そう言うなり和樹は、本当に部屋をさっさと後にした。
お前、いつ妹できたんだよ…。
下で、「お邪魔しました。」と爽やかに挨拶する和樹の声を遠くに聞こえた。