冷たい君の裏側。
「た、ただいま」

久しぶりに口に出したその言葉は少し詰まりながらもあっけなく落ちていく。

そうだよね。返ってくる訳ないのに…。
期待した方がバカだったかな…。


ガチャッ


視線の先の扉が開く。

そこには普段ならこの時間にはいないはずの人がいた。

「そ、らくん。た、ただいま」

「ん」


相変わらず視線は交わらなくて。
少しそのことに落胆した。

「きょ、今日は、は、早かったんだね」

やっぱり、少しつまる。
視線もあげず彼は言葉を放つ。

「今日は彼方のとこで呑んでくる」

感情の起伏がない平坦な声でそう放つ。
久しぶりに聞いたソラくんの声は相変わらず耳に心地よかった。

彼方は、ソラくんの親友でバーを経営している。
イケメンでとてもモテるけど、私の友達の咲愛を一途に想ってる。


「あ…、わ、かった」


また詰まる声。
今ぐらいちゃんと機能を果たしてよ。

その言葉は捕らえて貰えたのか。
そんなことも分からないまま、振り返ることもなく、またソラくんは出ていってしまった。


「あ…、う…、うぇ…」


口から漏れてくる嗚咽を抑えることも出来ず、そのまま静かに涙をこぼす。

あぁ、泣いたのは5ヶ月ぶりかな…

なんて、泣きながら思う。


こんなことしょっちゅうなのに。
変に期待するからダメなんだ。
そう思うのに、やっぱり期待する心を抑えられない自分に腹が立つ。



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