「僕はずっと前から君を知ってるよ」
噴水の青年
なんか居づらくなってしまったわたしは庭に出る。
父の母親である、葵さんが洋館ぽいのが好きらしく、家は洋館のようで、庭もとても広く、なんか東、南の塔まで造ってしまったらしい。
父も大分気に入っていたらしいが。
でも、お父さんは…、東の塔が好きだったのかな…。
わたしを東の塔ばかり連れていってくれた。
優しかったなぁ…。
「ははっ…」
自然と笑いがこぼれる。
恥ずかしい。
手に入らないとわかっている愛情を求めてしまう自分が恥ずかしい。
お父さんーーー。
「君、ヴァイオリン弾ける?」
ーーーーは、い?
「えと、ヴァイオリン、ですか?」
「うん。
弾ける?なら、お願いがあるんだけど」
東の塔に誰かいたーーー。
黒髪、肌が白い。
美しい青年が、噴水から流れる水に足を入れ、わたしに話しかけていた。
「えっと…あなたは?」
不思議と、悪い人ではないと思った。
なぜだか、そう思ったのだ。
「僕?僕のことは好きに呼んでいいよ」
「あ、はぁ…。
どこから来たんですか?うちの私有地ですけど…」
「ああ、そうか、そうだね。
ごめんね、内緒にして。」
はぁ、内緒?
無理に決まってーーー。
「僕と、君との、内緒、ひみつ。
じゃあ、僕は帰るね。
明日は、ヴァイオリン、持って来てね?」
「わ、わかりました…了解です…」
「うん、ありがとう。またね」
不思議と、その青年との内緒、ひみつがわたしは嬉しかったのか、とても感情が高ぶっていた。
コントロールできない程に。
興奮していたのだ。
まるで、「なにか」に求めていた「それ」に出逢えたかのように。