「僕はずっと前から君を知ってるよ」
車に乗ると、お兄さんは言った。
「コンビニ寄って、ココアとか買うか?」
「後で、欲しいです」
「そうか」
黒のスーツのお兄さんは運転をしていた。
わたしは静かに窓を見ていた。
「おまえのお母さんはルリちゃんて言ってさ。
すぐそこの総合病院の一人娘だったんだ。だから、跡取りでもあった。
おまえのお父さんーーー玲斗は元からちょっと心臓が良くなかったからさ、入院してたんだよ、ずっと。
だから、幼稚園も小学校、中学も行けなくてさ。おまえがすごい健康だったから、結構喜んでたんだよ。そりゃあもう、溺愛されてたさ」
「溺愛…? 」
お父さんがそんなにわたしを…?
たしかにすごく優しかったけど…。
「死ぬ時もさ、おまえのことばっか言ってて心配してたんだよ。
りりちゃん、りりちゃん、て」
りりちゃん…。
お父さんはいつもわたしをそう呼んだ。
それがわたしは嬉しかったのを覚えている。