「僕はずっと前から君を知ってるよ」
〖カノン〗
「はっ、はっ、は…っ」
しまった。
つい、お兄さんと話し込んでしまって、遅刻だ。
ヴァイオリンは持ってこれたから良かったが…。
「あーーーーーーー」
あの青年だーーー。
今日は木々に腰をあずけて座っている。
わたしをーーー待っててくれた?
「君、遅かったねぇーーー
待ちくたびれたから帰ろうかと思ったよ~」
あはは、って…。
「あ、持ってきてくれたんだね。ありがとう。」
「あ、はい。」
青年はわたしからヴァイオリンを取ろうとする。
わたしはヴァイオリンを渡そうとはしなかった。
強くヴァイオリンケースを握った。
「貴方は、誰なんですかーーー?
どうしてここに入れるんですか?
貴方は、お姉さんの知り合いかなんかですか?」
青年はにっこりと笑う。
わたしは、にっこりとは、笑わなかった。
すこし、キツイ目を青年に向けた。
「僕はーーー
うーん、じゃあ、ルーフェス、ルーフェスでいいよ」
「は、い…?
わたしの言うこと、聞いてましたか?」
聞いてました、けど。
と言う青年。
はぁ?
聞いてました、じゃねぇよ。
答えになってない。
「ね、ルーフェスって呼んで」
「る、ルーフェス…」
彼はやっぱり優しく微笑んでくれた。