セクシーな女神・ゴーインな戦士
運命の日
ミーティングやって、

係りを割り当てて、

演舞の練習して、

朝練に、買い出しに…


大宮と、どうこうするようなヒマもない。

目が回るような忙しさ。

これって、逆に気持ちがいい。


テニス止めてから、何にもしたいことなんかなくて、

何が好きとか、何が嫌いとか、自分でも分からなくなってたけど、

正直、今でも分からないんだけど、『リアル』はいい。



どんなにキレイに印刷されてたって、美味しそうだって、

メニュー表は食べられない。



「スポーツディが終わったら、バイトしようかな」

ファミレスでスパゲティーを頬張りながら、祐介に言った。


「部活じゃなくて、バイトですか?」

「そう」

「学校、バイト禁止でしょ」

「そうだっけ?」

「お母さんの手伝いなら、いいんじゃないですかね」


ぶっっ!と口を押さえた。


「冗談やめて。あんな鬼嫁の下で働きたくない」

「…あの清楚な女の子が、あそこまで女傑になるとは」


この前、家でママのアルバムを一緒に見た。

未だに学校にいる先生も多いから、若い頃の姿を見て爆笑。

でも祐介は、ママの変わりように衝撃を受けたみたいだった。


「会社でパワハラに遭って、自分が開発したシステムを上司に横取りされて。それで、ああなっちゃったみたい…パパから聞いた話だけどね」

「そうなる運命だったんですね。きっと能力があるから、パワハラされたんですよ。日本企業なんて、そんなもんです」



ガラス窓の向こうから、ノドカがやって来るのが見えた。

なぜか…ものすごい形相をしている。

ノドカも鬼嫁になるんじゃないか。


風圧を押しのけて、ノドカは店へ入ってくると、私たちの横に立った。



「…なに!?二人はなんなの!?」


私たちが目を丸くしていると、さらにノドカはまくし立てた。


「付き合ってるとでも言うわけ!?言っとくけど、ユリエさん!この人は家の跡取りなんですからね!ユリエさん、独りっ子でしょ!親が許してくれないと思うわ!」



唇を噛んで、笑いをこらえた。


これって、嫉妬じゃん。


ノドカも祐介を好きなんだ!

いつから!?


ちょっと、いじめたくなってきたよ。


「…うちの親、再婚したから。また子供出来ると思うよ」

「だ、だから!?ユリエさんが長女であることに変わりはないじゃないの!」

「だけど、うちの親にはもう祐介を紹介してあるし、喜んで出迎えてるし」

「なっ!紹介した…っ!?」

「週三で、一緒に夕飯食べてるよ」


ノドカが悲痛な声を上げた。

「やだっ!止めてよ!フケツっっ!」


店中が、こっちを見ている。

祐介が立ち上がって、ノドカを座らせた。


「ねぇ!?祐介はユリエさんでいいの!?跡取りとして、本当に確かな選択なの!?」


興奮するノドカを祐介が引き寄せた。

「…よく分からないんだけど、今日は運命の日だ」


祐介の腕の中で、ノドカがすすり泣きを始めた。



ノドカも長女だ。

家を継がないといけないって、思ってたんだ。

それでもずっと、祐介のことを好きだったんだ。
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