社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~

その日は、やってもやっても終わらない仕事の上に、打ち合わせが入っていつもよりも、遅い時間まで仕事に追われた。

やっと、ひといきついたところで、慌てて帰り支度をしている山崎部長が目に留まる。

「どうかなさったんですか?」

いつもなら、まだ仕事をされている時間だ。その慌て様が気になる。

「実は、妻が階段から落ちたらしい。今、子供から連絡があったんだ。あ……悪いがこれ、衣川課長へと届けてくれるか?」

クリアファイルに入れられた資料を渡された。

「はい、わかりました。あの、奥さまの怪我大したことないといいですね。お大事に」

「あぁ、じゃあ失礼するよ。お疲れ様」

いつも冷静な山崎部長が、ゴミ箱にぶつかりそうになりながら、フロアを出ていった。

衣川くん……は、まだきっと社内にいるわね。

この資料を届けたら、私も今日は帰ろう。

デスクの片づけをし、荷物をもって営業部のフロアに向かった。

私が営業部に出向くと、「あっ。蓮井さん」という若林くんの声があがった。

あっ……いた。

久しぶりに彼の顔を見た。けれどなんでもないようなふりをして、河原さんのデスクでパソコンに向かっているふたりに近づいた。

「まだ残ってるの? 早く帰らないとダメよ」

「はい」

疲れているのか、そっけない態度が少し気になる。様子を窺おうとしたけれど、若林くんに声をかけられた。
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