社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「蓮井さんは、なにしに来たんですか?」

「あぁ、衣川くんに用があって……あ、いたいた」

ちょうど戻ってきたばかりの衣川くんのデスクに向かう。

そのとき、ふと見た若林くんの顔が曇っているのに気がついた。

あとで話を聞く時間があるだろうか……?

そんなことをかんがえながら、山崎部長に頼まれた資料を衣川くんに手渡した。

「これ、山崎部長から預かったの」

「蓮井がおつかいだなんて、珍しいな」

「ちょうど帰るところだったから、ついでにね」

手渡した資料をパラパラめくり、その場で確認している。

「わざわざありがとうな」

「うん」

返事をした瞬間、衣川くんの視線が私の背後に向かい、一瞬にして顔色が変わる。

不思議に思って振り向いたとき、私を強引に押しのけて彼が前に出た。

「河原っ!」

ふらついた私は、なんとかふんばって状況を把握する。

目の前には、倒れた河原さんを抱きとめている衣川くんの姿があった。

「大丈夫なのっ!」

とっさに駆け寄って河原さんの顔色を見る。真っ青で苦しそうだ。

「貧血みたいだな。医務室に連れて行く」

「この時間は鍵がかかってるわ。若林くん、総務へ行って鍵をもらってきてくれる? 私は目が覚めたらすぐに帰れるように、河原さんの荷物を取って来るから」

衣川くんの態度はあきらかにいつもと違っている。冷静さを欠いている彼の代わりに私は指揮をとった。
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