社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「どういう意味? 衣川くんは河原さんが心配で——」

「蓮井さん、衣川課長いや、元彼が誰とつき合うか気になりますか?」

「え?」

思ってもみなかった言葉に驚いて、目を見開いたまま言葉が出ない。

どうして——もしかして、あの噂を聞いたのかもしれない。

何年か前に流れた、私と衣川くんが付き合っていたという噂。

そんな事実はないのだけれど、まだそんな昔の噂話がされているなんて、思ってもみなかった。

「それとも、まだ衣川課長のことが好きなんですか?」

一歩私に近づきながら、聞いたこともない低い声を投げかけられた。

射るようにみつめられて、私はどう説明していいのか、考える。

「違う、私……」

彼が私の腕をひっぱって、強く抱きしめた。

息が止まりそうなほど、驚いてされるがままだ。

痛いほどの抱擁に、説明しなくてはならないのに、出来ずにいた。

「なにが違うんですか? オレは誰かの代わりだったんですか?」

彼の腕の中で必死に頭を振って否定する。

「誰かの代わりじゃなくて、オレをちゃんと見て下さい。オレやっぱり貴和子さんがいいんです」

心臓が苦しいくらいに音をたてた。こんな風に全力で、私が好きだと言ってくれている。

「私だって、若林くんがいい」

私の言葉に、彼の腕の力が一瞬にして緩む。

そして私との間に距離をとると、覗きこむようにして、私を見つめた。

「私が好きなのは、若林くんよ」

顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。この歳になって、こんな形で告白することになるとは。
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