社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「逃げようなんて、無駄ですから」

彼に似つかわしくない表情で、ニヤリと笑うと次いで、真剣な顔になる。

「蓮井貴和子さん、オレに結婚を前提に捕まってください」

「っ……、若林くん、ちょっと待って」

なにもそこまで、求めていないのに。慌てる私をお構いなしに私を抱き寄せた。

「もちろん『イエス』ですよね?」

熱のこもった彼の瞳に捉えられる。王子様なんて言われている彼だけど、隠された男らしさを剥きだしにされると、抗うことなんてできなかった。

「——よろしくお願いします」

決心して声に出すと、彼の顔が嬉しそうにほころんだ。彼の手が、私の頬に優しくふれる。そのまま彼が親指で私の唇をなぞった。

その感触が、くすぐったいけれど心地よくて、思わず目を閉じた。

「そんな顔したら、我慢できなくなるじゃないですか」

不穏な空気を感じて、目を開くと燃えるような悩ましい瞳とぶつかる。

「いやなら、本気で抵抗してください」

そういった彼の薄く開いた唇が、私の唇を激しく奪う。

私は、心も体も揺さぶるような彼のキスになすすべもなく、受け入れるしかなかった。

……だって、嫌なんかじゃないから。

本気で抵抗するなんてこと、できるわけない。

気がつけば私は、ここが医務室だと言うことも忘れて、彼に夢中になっていた。
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