社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「すごく不器用なんです。仮面をかぶってるわけじゃないんですけど、違う自分でいるほうが仕事中は楽なんですよ」

「オンとオフを切り替えてるってことですね」

「そう言えば聞こえがいいですけど、本当はダメな自分を隠そうと必死なだけですよ」

自嘲する私の手をマッサージする仁美さんが私を慰めてくれる。

「でもきっと、どっちの蓮井さんも受け止めてくれる男性が現れますよ。恋をするべきタイミングで、そういう人は現れるものです」

その言葉を聞いて、ふと若林くんの笑顔が浮かんだ。

それを振り払うように、深く座っていた椅子から思わず体を起こしてしまう。

ど、どうして? なぜ今彼の顔が思い浮んだんだろう。

「どうかされましたか?」

急に動いた私に驚いたのか、仁美さんが驚いた様子でこちらを見つめていた。

「あ、いえ。なんでもないです」

私はもう一度椅子に深くもたれて、綺麗になっていく自分の手をしばらく見つめていた。しかしゆっくりと瞼が落ちてきて、気持ちの良いまどろみの中に身を任せたのだった。

「終わりましたよ」

「……はい」

仁美さんに声をかけられて、ゆっくりと閉じていた瞼を開いた。

「いかがですか?」

「とっても綺麗です」

短め目の爪に、グレージュのカラーが施されていた。右手の薬指だけ先端にゴールドのラメが施されている。控えめだけど、女心をくすぐる素敵な仕上がりだった。

「おつかれさまでした」

椅子から立つと、仁美さんに促されてレジのあるカウンターまで足を運ぶ。すでに次のお客さんが待っていた。
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