社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
笑顔の若林くんとは対照的に、私は苦笑いするしかなかった。

またもや彼の前での失態に恥ずかしくて身の置き場がない。

どうしていつも、彼にかっこ悪い私を見られてしまうんだろう。

「ありがとう」

私は日傘を受け取ろうと、手を伸ばした。しかし、スッと引かれて掴みそこねた。

「え……あの、それ私のだよね?」

「はい。そうです」

額の汗が彼のさわやかさを三割増しにして、ニッコリと私に微笑みかけた。

もう一度、彼の持っている日傘に手を伸ばすと、彼が手を引いて日傘を私から離した。

さすがに二度ともなると、わざとだということが理解できた。

「どういうつもり?」

さっきまで好意的に見えていた、彼の笑顔が途端に胡散臭く見える。

わざわざ忘れ物を届けに追いかけてきてくれたことは、ありがたいと思う。けれど今のこの態度はどうだろう。

「ランチ行きませんか?」

「へ?」

突然の申し出に驚いて間抜けな返事をしてしまった。

「実は、オレ朝ごはん食べ損ねておなかペコペコなんですよね。だからランチ行きましょう」

「うん。ちょっと待って」

どういう意味だろう。いや、ランチに誘われているというのはわかる。しかしどういうつもりで私を誘っているのかがわからない。

「あれ、蓮井さんお腹空いてませんか?」

「いえ、そんなことないけど」

朝、トーストをかじって以降なにも口にしていなかった私は、空腹を感じていた。
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