社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「仲がいいって言うのかな? それに衣川くん——いや、衣川課長の場合は他の人と話をしないから、私と仲がいいって見えるだけでしょう? それに仲がいいって言えば、二課の滝本さんや、一課の河原さんとの方がずーっと仲良しだわ」

なんか言い訳がましい? でもそれが事実だ。

スプーンを口に運びながら答えた。

——まさか、あの噂……まだ生きているのかな?

それは、衣川くんと私が付きあっているという話だ。まことしやかに社内でささやかれていたことは私も知っている。

衣川くんの名古屋への転勤がきっかけで自然消滅した“そうだ”。

こういった噂は社内ではよくあることだけど、実際に付き合ってないふたりになぜこんな噂話がもちあがったのか不思議だ。

そして何度かこうやって蒸し返される。

しかしそれを自分から「その話嘘だから」なんて、先回りして言うのも変な話だ。

「そうだ、若林くんは本社に来る前は横浜にいたんだよね?」

「はい。入社してすぐに配属になって、翌年本社に異動になったんです」

一年で異動。そういうことがないわけじゃないけれど珍しい。そして理由はなにか大きな失敗をしたか、その逆か。

若林くんは後者だ。彼の仕事ぶりは私の耳にも届いている。

横浜では新規顧客の獲得の歴代一位の記録を塗り替えた。新卒の社員に期待されるもっとも大切な成果だ。
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