社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
思わず見とれそうになって、急いで視線をはずした。とってつけたように、エレベーターの扉をみつめて、開くのを待つ。これ以上話しかけられないようにするためだ。

私は挨拶はきちんとするけれど、顔見知り程度の社員に世間話を振るようなことはしない。

愛想がないと言われてしまうかもしれないが、新入社員時代に周りに合わせて世間話を試みて気疲れしてしまったことから、仲のいい社員以外とは最低限のやりとりしかしなくなった。

しかし、話かけられればきちんと返事はする。でも、それを「鼻持ちならない」とか、「お高く留まってる」と陰で言われていることも知っている。

——本当はうまくできないだけ。

けれども、それを理解してもらうのもまた大変だ。理解してもらうのを諦めた私は、その陰口を逆手にとって“おタカい蓮井さん”をスーツとヒールを身に着けることで演じていた。

そして、それは今のところ見事に成功している。

エレベーターが来て、待っていた人が一斉に動きだし開いた扉に向かう。そとのき、誰かが後ろから私の肩にぶつかった。

あっ……。

膝が折れて、ぐんっと大理石の床が近くなる。咄嗟に手をつこうと腕を前に出し、次に来る衝撃を想像して思わず目を閉じた。
< 3 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop