社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
別に私だって、秘密主義なわけじゃない。ただ相手を選ぶだけだ。

……だからこそ、こんな風に自然に彼と楽しい食事をとれたことが少し自分でも驚いた。

食事を終えた私がスプーンを置き、水を一口のんだときに、不意に新しい質問をされた。

「そうだ、一番聞きたいこと忘れてました」

無邪気な表情での彼に私は水を飲みながら、軽く頷き質問の先を促した。

「八年、恋してないって本当ですか?」

「んっ! ゴホッ、ゴホッ」

飲んでいた水でむせた私に、若林くんは「大丈夫ですか?」と心配してくれる。

もう、誰のせいでこんなことになったと思っているの? もっとデリカシーのある人だと思っていたのに。

正直この手の話をするのは、いくら話しやすい相手だとしても気が引ける。

しかしサロンでの会話を聞かれてしまったのだ。今さら隠そうすれば、変に思われるだろう。

「まぁ、うん。本当のことよ」

「ふーん。意外でした。蓮井さんって仕事も恋もなんでも器用にこなしているイメージがあったんで」

そうだろう。だって、自分でそう見せるように努力してきたんだから。でも、本当の私はそんなんじゃない。若林くんはもうすでに気がついているだろうけれど。

「ガッカリした?」

不意に口をついて言葉がでた。そしてそれに自分でも驚いた。
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