社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
「えっ……」

しかし、衝撃は一向に私の体を襲わない。その代わり床と反対方向に体が傾いた。
次の瞬間、ドンッと柔らかい感触を背中に感じて目をひらく。

「はあ……危なかったですね」
声のした方を振り向くと、至近距離に若林くんの整った顔があって、思わず後ろに飛びのいた。

その勢いで、また足がよろけそうになったところを、さっきと同じように腕をひっぱって助けてくれた。今度は慌てることなく、自分の足でしっかり経ってから、彼の顔を見上げた。

「ご、ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですか?」

心配そうに身をかがめ、私の様子を窺っている。

「うん、ありがとう。おかげで転ばなくてすんだ」

「よかったです。怪我もないみたいですね」

しっかりと立っている私の足を見てから、視線を私に戻しニッコリと笑った。

そのまぶしい笑顔が直視できずに、少し視線をずらす。

そんなことをしている間に、行ってしまったエレベーターが戻ってきた。

「あ、あれに乗りましょう。けっこう時間ギリギリです」

腕時計を確認すると始業開始十分前。ロッカールームに寄る時間もなさそうだ。

「ごめんね。変なことに巻き込んで」

「気にしないでください。オレがやりたくてやったことですから。それよりも早く乗りましょう」

エレベーターの扉が開くと、すっと若林くんの手が私の背中を押した。一瞬ドキリとして全神経が背中に集まったが、決してそれは嫌な感じではない。でも、ドキンと心臓が大きく跳ねた。

私は、彼にされるまま優しく添えられた手を意識しながらエレベーターへと乗り込んだのだった。
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