社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
第三章
第三章
すやすやと眠る彼の寝顔を間近で見つめる。さっきまで見せていた、しなやかで艶めいた男の顔はいったいどこにいってしまったのだろうか。
閉じた瞼を覆う長い睫。
規則正しい寝息が聞こえる、薄く開いた唇。
いつもはきちんと整えられている、寝乱れた髪。
思わず触れたくなって、手を伸ばした私は我に返って、手を固く握った。
なにやってるの……。
自分を戒めてそっと、彼と睦み合ったベッドを出る。
ギシッとベッドがきしむ音がして、驚いて体がこわばる。
ゆっくりとベッドを振り向くと、若林くんは寝返りをうっただけで、まだ気持ちよさそうに眠っていた。
ほっと胸をなで下ろし、服を探す。
私と若林くんの服が折り重なるようにして床にある様子は、さっきのベッドでのふたりを彷彿させて、体の芯が震えた。
頭を振って、気持ちを立て直すとすぐに衣類を身に着けた。
そしてバッグからお財布を取りだすと、バーとホテルの代金をテーブルの上に置いて出口に向かう。
ドアノブに手をかけたとき、思わずベッドに視線を向けた。
そこには、私に背を向けてまるまって眠っている若林くんの姿があった。
なに、未練がましいことしているんだろう。彼が目覚めるまえに……いや、一刻も早くこの場を立ち去らなきゃいけないのに。
私は、扉を開けると一歩外に出た。そしてゆっくりと扉を閉じる。
彼が朝目覚めて、状況を把握したらきっと私の言いたいことを理解してくれるはずだ。
絨毯の廊下にヒールを取られて歩きづらい。
だから足取りがゆっくりになるだけだ。
決して彼が起きて追いかけてくれることを、願っている訳ではない。決して。