社内恋愛症候群～小悪魔な後輩君に翻弄されて～
階数表示のランプが徐々に一階に近づいてくる。

「オレは誰に見られても構いません」

はっきりと言いきる声が、背後から聞こえた。しかし、そんなわけにはいかない。

「私が困るの、人目のないところで話をしましょう」

このままでは、彼はデスクまでついてきそうだ。

私はため息をつくと、扉が開いたエレベーターに乗り込み、屋上のボタンを押した。

私の後から乗ってきた彼は、ランプのついた屋上のボタンを確認するとすぐに【閉】ボタンを押した。

私がボタンの前に立ち、若林くんは奥の鏡の前に立った。

到着するまで、ふたりとも一切口を開かなかったけれど、背後から彼の痛いくらいの視線を感じた。

それだけなのに、ドクドクと音を立てる心臓に我ながらあきれてしまう。

息苦しさを感じ始めたころ、エレベーターが屋上に到着した。

先に彼を下ろすと、私も続けて出た。先に歩いている彼が、屋上の扉を開けたまま、私が中に入るのを待ってくれていた。

怒っているときも、優しい。

彼らしさに思わず緊張の糸が切れそうになった。

ダメよ、自分をしっかり持たないと。流されてしまうなんて、私らしくない。

自分に言い聞かせると、まだ扉のところにいる若林くんを待たずに、さっさとフェンスまで足を進めた。
< 82 / 124 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop