社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
改札をぬけ、駅のホームで電車の到着を待っていると、バッグの中でスマホが震えはじめた。取り出して相手を確認すると、若林くんだった。

ふっと疲れた体が軽くなった気がする。私は急いで画面にタッチして応答した。

「もしもし、若林くん?」

「あ、蓮井さん。まだ会社……じゃなさそうですね」

背後に駅のアナウンスが流れているのが、電話の向うの彼にも聞こえたのだろう。

「うん、もう駅のホームにいる。なにかあった?」

「いえ、お昼に話が途中だったんで、気になってたんですよ。ちょっと聞きたいことがあったし」

そういえばそうだった。昨日まではできるだけ彼を避けていたのに、そんなことさえ私は忘れて彼の電話に喜んでいた。

「そうだった。資料の数字完璧だったよ。おかげで今日はすごく仕事がはかどった。本当にありがとう」

私は改めてお礼を言う。壁際に移動しながら電話を続けた。嬉しくて、顔がにやけていないか心配だ。

「よかった。オレとしてはバレてちょっとはずかしですけど。なんかストーカーみたいじゃないですか」

——若林くんなら大歓迎。

セリフが思い浮んできたけれど、飲み込んだ。
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