普通の人間の恋


数日が経ち、私は離婚届にサインをした。
彼は泣きながらサインをした。


「これ、あなたが唯一モノとしてくれたの・・返すから」


指からスッと外し、離婚届の隣に置いた。
全く輝きはしない指輪だった。でもあの頃は嬉しかった。
いつも彼がくれたものは食べ物が多くて、無くなるものだったから。


「じゃあ、さようなら」


私は長年同棲していた家から出て行った。

これからは一人で頑張らなくちゃとは思ってたが、
お金のことは全部一人でやってたから、
前よりはさほど変わらないのかもしれない。

思い出も、何もかもを捨てて、子供と一緒に再スタートするんだ。


数日後の夕方、彼は莫大な借金を残してこの世から去ったのをニュースで見た。
あの同棲していた部屋で自殺をしたそうだ。
一人では何もできなかったんだろう。

私はニュースを止めて子供の迎えへ向かった。


「へ・・?出て行った・・?」


子供は誰かに呼び出され、幼稚園から出て行ったという。
そんな、あの子が知らない人についていくはずが・・。

一瞬変な冷や汗が出た。
まさか、知ってる人に呼び出されていたら・・?
先生達もバカではない。最近まであの子に父親はいたんだから。

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