ファジー。
「俺、こっちの道だから」
「…あ、そーなんだ。
バス停いくの?」
「バス停。」
会話が途切れたけど、どちらからも“バイバイ”とか“じゃあね”って言葉が出ない。
さっきと同じ。
言い表せない、ざわざわした雰囲気。
「………あのさ
すき、なんだけど」
すき。高瀬が、私のことを、好き。
ある程度予想はしていた。
でもやっぱり驚くし、照れくさくなるし嬉しくもなる。
どきどき、してる。
手を握られたときの早い鼓動じゃなくて、
穏やかな心臓の音。
「…た、高瀬、あの」
「返事、考えといて。
じゃあな!」
そう言ったが早いが走り出した高瀬の背中は、すぐに小さくなっていく。
突っ立っている私はなんとなく手持ち無沙汰になって、意味もなく髪を耳にかけた。
あとは私が返事をすれば、夢見ていたことが実現できるはずだった。
ただの友達だった高瀬が、私の彼氏になるはずだった。
私が、馬鹿みたいに意地を張らなかったら。