鬼常務の獲物は私!?
セカンド・インパクト
◇◇◇
「日菜(ひな)ちゃん、このメーカーさんの輸液ポンプの資料を揃えといてくれる? 明日の朝イチで石田病院に営業に行くから」
「はい、分かりましたー」
ここは株式会社、神永(かみなが)メディカル。
簡単に説明すると、色んなメーカーから医療機器や理化学機器を仕入れて、病院や研究施設に卸売りするのが仕事の会社だ。
私、福原日菜子、二十七歳は営業部の事務員。
今、先輩営業マンから『揃えといてくれる?』と渡されたメモ用紙には大手医療機器メーカー五社の名前が書かれていて、それを手に席を立った。
広い営業部のフロアをドアの方へと歩く。
ドア横の壁際には資料ボックスがズラリと並んでいて、お目当てのメーカーの引き出しから、必要な資料を集め始めた。
ええと、スーメンスさんと、ポリンポスさんと……そうだ、ヘプロさんの輸液ポンプは新型が発売予定になっているから、その資料も入れておいた方がいいよね……。
営業マンを補佐する事務員としてのお仕事を、真面目にこなしている私。
すると、急に背後から誰かが抱きつき、肩の上に顎を乗せてくるから驚いた。
「なにやら日菜から、おいしそうな匂いがする」
そう言ったのは、同期入社で同じ営業事務の辻占星乃(つじうら ほしの)、二十七歳。
真っ黒で直線的なミディアムヘアがトレードマークの彼女は、私に回していた腕を解いて隣に並ぶと、綺麗な顔をわずかにしかめた。
「またお菓子食べながら仕事してる。この匂いは、クリコの粉雪チョコ苺味とみた」
「わ〜すごーい! 星乃ちゃん、正解だよ」
笑顔で拍手して、紺色チェックの制服のポケットからお菓子の箱を取り出し、食べるかと聞いたら、呆れ顔をされてしまった。
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