鬼常務の獲物は私!?
和気あいあいと楽しく宴は進み、お品書きを見ると、次はご飯物、海鮮あんかけ炒飯だ。
楽しみで、バッグヤードに繋がる従業員用の扉を見ていると……来た!
大皿にドーム型に盛られたあんかけ炒飯を手に、ウエイターが入ってきた。
他の人の分までもらって既にたくさん食べている私なのに、それを見てお腹がグウと鳴る。
頭の中はあんかけ炒飯でいっぱいで、ウキウキしながら目で追っていたら、「日菜!」と怒っているような声を後ろに聞いた。
「あ、星乃ちゃん。次はあんかけ炒飯だよ、楽しみだね〜。その後は、点心の小籠包とエビ餃子と桃饅頭で……」
「おバカ。のん気に料理を期待してる場合じゃない。時計を見なさい」
「十五時二十五分だけど……ああ! ごめんなさい!」
料理に夢中ですっかり忘れていたことがあった。
それは迫る余興の時間だ。
今、ステージ上では他部署の男性社員が、マジックショーを披露している。
それが終わると、私たち営業部の女性社員の番で、急がなくてはならない。
残念ながら、できたて熱々の内にあんかけ炒飯を頬張ることはできないみたい。
後ろ髪を引かれながらも席を立ち、星乃ちゃんに背中を押されるようにして大ホールを抜け出した。
長い廊下の奥にある、ホテルの更衣室に駆け込むと、既に着替えを終えた営業部のみんなに、口を揃えて「遅ーい」と叱られてしまった。
謝ったその後は着せ替え人形状態で、寄ってたかって着ていたワンピースを脱がされると、あっという間にアイドル風の衣装にチェンジ。
そう、私たち十二名は、今はやりのアイドルソングで踊るという、ありきたりな余興を披露する。
平均年齢が三十歳なので、チェックのプリーツミニスカートと制服風のブレザーは見た目に少々キツイけど、余興の定番ということでこれに決まった。
着替えが済んでみんなで更衣室を出ると、ちょうど総務部の進行係が、呼びに来たところだった。
「営業部の皆さん、前の余興が終わりそうなので、ステージ袖に集まってください」
ぞろぞろと大ホールに戻ろうとしている廊下の途中で、私の頭はまだあんかけ炒飯から離れられずにいた。
これが終われば、食べられる。
海鮮の旨味がギュギュッと詰まった茶色のあんが、パラパラのご飯にとろーりとかかっていて……。
口の中に唾が込み上げてくる。
あんかけ炒飯のために余興を無難に終わらせようと、ひとり気合いを入れていたら、隣を歩く星乃ちゃんが訝しげな視線を投げてきた。