鬼常務の獲物は私!?
営業部全社員の注目を浴びながら、左手にスマホ、右手になぜか足もとに置いていた紙袋を掴んで、私は営業部を飛び出した。
元村係長に言われた『俺たちの身の安全』という言葉に、心が慌ててしまう。
急がないと……神永常務が怒り出さない内に行かないと……営業部の皆んなが殺されてしまうかもしれない!
焦りに背中を押されて、廊下をひた走る。
しかし気持ちに足が付いていけず、障害物のない廊下で、まずはひと転び。
続いて階段への曲がり角で、壁に爪先を引っ掛けて、もうひと転びしてしまう。
ぶつけた膝が痛むけれど、気に留めている余裕はない。なにしろ、営業部全社員の命がこんな私に託されているのだから。
3センチヒールのパンプスで、必死に階段を駆け上がる。
3階から5階まで上る間に、さらに3回転んで、ようやく常務室前にたどり着いた。
肩で荒い呼吸をしながら、ドアをノックする。
中から開けてくれたのは高山さんで、「福原さん、おはようござい……」そこまで言った後は絶句して、事務的な笑顔がたちまち驚きの表情へと変化した。