鬼常務の獲物は私!?
ズタボロになってしまった自分の姿に驚いていたら、立ち上がった神永常務がツカツカと歩み寄り、私の両肩を強く掴んで顔を覗き込んできた。
「お前、まさか……虐められているのか?」
「へ……?」
「誰にやられたんだ。隠さず正直に言え。
日菜子の白い肌に傷をつけるとは、許せん……」
目を吊り上げて大きな勘違いをしている神永常務をポカンと見上げてしまったら、ひとりだけ冷静さを取り戻している高山さんが、私の代わりに説明してくれた。
「福原さんは社内でマスコットキャラ的に愛されているようですので、虐めはあり得ないかと」
「じゃあ、この姿はどうしたと言うんだ!」
「はい。恐らく、常務からの急な呼び出しに慌てるあまり、ここへ来るまでに何度も転んだのではないでしょうか」
その通りの説明に、吊り上っていた常務の目が元に戻る。
数秒の沈黙があり、その間、観察するような視線が私の頭から爪先までを往復していた。
「日菜子、そうなのか?」
「はい、合計5回転びました」
「マジか……」
呆れと哀れみの混ざったような目で見下ろされ、正直に言ったことが少々悔やまれた。
5回じゃなく、3回にしておけばよかった……。