鬼常務の獲物は私!?
ソファーに座らされ、高山さんが救急箱を持ってきて消毒してくれた。
絆創膏が両膝と額に貼られると、自分の鈍臭さを痛感して情けなくなる。
「福原さん、ベストを脱いで下さい。取れたボタンを探して、縫い付けておきますから」
「いえ、そんなことまでしていただく訳には……」
「こう見えても裁縫は得意なので、ご遠慮なく。
それに福原さんには、あなたにしかできない特別な仕事がありますので」
特別な仕事……その言葉に首を傾げつつもベストを脱いで、「お願いします」と高山さんに預けた。
高山さんは救急箱とベストを手に、スタスタとドアへ向かって歩いて行く。
「それでは私はこれで。
神永常務、くれぐれも時間をお忘れになりませんよう、お気をつけ下さい」
「分かっている」
一礼して高山さんが出て行き、常務室のドアがパタンと閉められた。
またふたりきりの状況が訪れて、鼓動が2割り増しで速度を速めてしまう。
それは恐らく、私の心がなにかを予感しているからで……。