鬼常務の獲物は私!?



体の奥に疼きを感じ、このままでは心が持ちそうにないと慌て始めた。

どうしよう……そう思ってさ迷わせた視線が、テーブル上の珈琲カップを捕らえる。


「あ、あの、珈琲いただきます」

そう言うと思惑通り、常務が一旦肩から腕を外してくれた。

ホッとして珈琲を手に取る。

カップは前と同じ青い猫の絵柄で、口もとに運ぶ前に色と香りで気づいた。

「あれ……珈琲じゃなくて、ココアだ……」

「どうした? ココアが好きなんだろ?」

「はい、好きです。でも、どうして……」

「お前が前にそう言ったから、高山に用意させただけだ」


そう言われて思い出す。

初めて常務室に入ったのは4日前の社長に謝罪に行った後で、あの時、珈琲と紅茶のどちらがいいのかと聞かれた私は、ココアと言ってしまった。

『俺の部屋に、そんなものはない』と言っていたのに、私用にわざわざ用意してくれたんだ……。


ひと口飲んで、「美味しい」と頬を綻ばせる。

神永常務の入れてくれた私好みの甘いココアは、心まで温めてくれるような、優しい味がした。

< 109 / 372 >

この作品をシェア

pagetop