鬼常務の獲物は私!?

「星乃ちゃん、どうしたの? もしかして、緊張してるの?」

「この私が緊張などするものか。日菜の顔に、不吉な相と吉相の両方が出ている。これは一体、どういうことなのか……」


不吉な相と吉相ということは……つまり、悪い事といい事の両方が起きるということだ。

それについて考えてみると、思い当たることがあった。

あんかけ炒飯だ。

悪い事とは、熱々の内に食べられないことで、いい事とは、余興を成功させた後に思う存分、食べられるということでしょう。


大ホールのステージは、演劇場にあるような立派なもの。

今は幕が下ろされていて、ステージの真ん中に円陣を組んだ私たちは、「営業レディース……ファイッ、オウッ!」と掛け声をかけると、それぞれの配置についた。


Vの字に並んだ中で、私のポジションは右側の一番後ろ。

きっと一番下手だろうから、目立たない位置を自ら志願した。

幕が上がり、眩しいライトに照らされる。

誰もが一度は聞いたことのあるアイドルソングが流れると、会場のあちこちから拍手や指笛が鳴らされた。


踊り出した営業部の女性十二名。

私も曲に合わせて動き出す。

運動神経が鈍くても、自宅で何度も練習したので、自分では結構上手に踊れているつもりだった。

それなのになぜか会場に笑いが起きて、「日菜ちゃーん、期待通りでいいよー!」と、私個人に対しての変な応援の言葉も聞こえた。


もしかして、私が一番目立ってる?

端っこにいるのに、どうして……。


みんなの動きと見比べ、ワンテンポもツーテンポも遅れていることにハッと気づいたら、途端に心が焦り出す。

両手を上げて、左にステップして……ああ、違う、右だった!

くるっと回って前を向いて……ええっ、なんでみんなは後ろを向いてるの!?


合わせないと、と思えば思うほど、ズレてしまう振り付け。

会場がドッと湧いていた。

お酒が入っているのでヤジも容赦なく、会場のあちこちから恥ずかしい言葉を投げられてしまう。


「福原さん、とろいよ、 鈍いよ、ズレまくってるよ!」

「日菜ちゃ〜ん、とろかわいい〜」

「ひとりだけ阿波踊りに見えるのはなぜだー!」

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