鬼常務の獲物は私!?
ココアのお陰で心に落ち着きを取り戻した私は、「そうだ!」とあることを思いついた。
立ち上がり、姿見の横に置いていた破れた紙袋を取りに行って、ソファーのもとの位置に座り直す。
「なにを持ってきたんだ?」と、横から常務が中を覗こうとする。
「大した物じゃないんですけど……」
急な呼び出しに慌てるあまり、側にあった物を掴んで走り出し、なぜか持ってきてしまったこの紙袋。
中には、私の手作りクッキーが入っている。
服や鞄を貸してくれた営業部女子の皆さんへのお礼に焼いたクッキーは、ひと袋だけ余っていた。
クリスマスイブのデートのお礼に……とは、思っていない。
高価なネックレスと食事のお礼がこれだなんて、それはあまりにも失礼というもの。
ただ、お茶請けにどうかと思いついて、出しただけだった。
透明な袋に入ったクッキーを笑顔で取り出してから、ハッと気づく。
これ、猫型クッキーだった。
猫嫌いな神永常務には、ただの嫌がらせになってしまう……。
焦って紙袋の中に戻そうとしたら、横から伸びてきた手に奪われてしまった。
「あ、あの、それは……」
「お前の手作りか?」
「はい……」
「へぇ、クリスマスイブのお礼に焼いてくれたのか。嬉しいな」