鬼常務の獲物は私!?



え……嬉しい?

こんな物をクリスマスイブのお礼にしてもいいの? しかも猫型クッキーなのに……?

予想外な言葉を聞いてしまい、神永常務の横顔をまじまじと見てしまった。

常務はラッピングのリボンを解いて、透明な袋の中から猫型クッキーを1枚取り出すと、それを口に入れた。

サクサクと気持ちのよい咀嚼音が聞こえて、喉仏がコクリと上下する。


「旨い。今まで食べた中で、一番旨いクッキーだ」

「ありがとう……ございます……」


いつもムスッとしている口もとは両端が上向きで、確かに微笑んでくれている。

クリスマスイブのデートで色々してくれたお礼が、こんなクッキーだなんて、私には失礼に思えるのに、神永常務は嬉しいのか……。


袋の中には残り4枚のクッキーが入っている。

よく見ると、私が転んだせいで割れている物もあった。

割れてしまった1枚を常務は取り出し、食べてから、残りをそっとテーブルに置いた。


「もったいないから取っておく。
会議後に1枚と、外出先で2枚だな。今日の仕事は正直キツイと思っていたが、これで楽しみができた。日菜子、ありがとう」


神永常務って……。

今までのイメージは、いつも不機嫌で、私たち下の者を叱りつける恐い人。突然呼び出したりする、ちょっと困った人でもある。

そんな私の中の常務のイメージが、少しだけ変わった気がしていた。

神永常務って……恐いけど、気を遣ってくれたり、優しかったり、可愛らしいところもあるんだ……。

今度は余り物じゃなくて、常務のためだけに、クッキーを焼いてこようかな……。


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