鬼常務の獲物は私!?
気持ちが解れて、クッキーを喜んでくれた常務に笑顔を向ける。
「ありがとうございます!」と元気にお礼を言ったら、「俺がありがとうと言ったんだから、お前はどういたしましてだろ?」と笑われてしまう。
「お前って、ほんとズレてるよな。
いくら急いでいても、5回も転ぶ奴がいるか。
ったく、怪我までして、髪もひどいことになってんな……」
そういえば、ぐちゃぐちゃな髪をまだ直していなかった。
常務の手が私の頭に移動して、ベージュのリボンが付いたヘアクリップを外された。
ひと束に纏めた髪をひねり上げて留めていただけなので、ヘアクリップを外されると、長い髪はハラリと解けて落ちる。
私の髪を指ですいて整えてくれる常務の左手が、うなじに触れてピタリと動きを止めた。
「これ、俺が買ってやった奴か?」
そう聞かれたのは、ネックレスのこと。
イブのデートで買ってもらったネックレスは白いブラウスの中で、外からは見えない。
襟元を覗き込めば、チェーンがチラリと見える程度だ。