鬼常務の獲物は私!?



驚いて目を開けたら、胸に触れているのは常務の唇だった。

私の両手首を拘束していた彼の手は離され、今は私を抱えるように背中に回されている。


「え?え? じ、常務……やめて下さい……」

驚き震える声でお願いするも、「だめだ」と言われて、彼の腕にさらに力が込められてしまった。

チクリとした痛みを、連続で数回感じていた。

それは常務の唇が私の胸に与える痛みで、強く10回ほど吸い付かれた後に、唇も腕も離された。


やっと羞恥から解放されて、大慌てでブラウスの襟を引き寄せ、胸もとを隠す。

神永常務は私の顔横に片腕を突き立て、真顔でジッと見据えて言った。


「お前には、男を妬かせる才能があるようだ……。まさかそれは、計算じゃないよな?」


日本語なのに、何を言われているのかさっぱり分からなかった。

ただ困った顔で常務の顔を見返すと、不機嫌そうだった口もとがニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


「奴が付けた傷痕の上に、俺の印を付けておいた。より濃く、より強烈なものをな」


俺の印って……。

恐る恐る襟もとを少しだけ開いて自分の胸を覗き込むと、左胸の上の、太郎くんが引っ掻いた小さな傷の上に、赤紫色内出血があった。

それもひとつじゃなく、重なりながら円を描くように10個ほど付けられているので、まるでバラのボディペイントみたいに見える。

< 117 / 372 >

この作品をシェア

pagetop