鬼常務の獲物は私!?
その後は、重役会議の時間だと言われ、服を直して髪を結い上げ、慌ただしく常務室を出た。
廊下に出るとそこには高山さんが事務的な笑顔で待機していて、私が預けたベストを返してくれた。
取れたボタンは丁寧に縫い付けられ、彼の几帳面な性格が伝わってくるようだ。
お礼を言って着ようとしたら、高山さんに待ったをかけられた。
「福原さん、ブラウスのボタンを掛け違えています。そちらを先に直してはいかがでしょう」
指摘されて胸もとを見ると、確かにひとつズレていた。
急げと言われて身支度したせいだと思うが、それにしても小さな子供みたいな間違いをしてしまったことを恥ずかしく思った。
男性ふたりに背を向け、赤くなりながらボタンを留め直しベストを着ていると、後ろで高山さんの溜息が聞こえた。
「神永常務、そのようなことを常務室でするのは、いかがなものでしょうか」
「あ"? なにもしてないぞ。
おかしな想像をするな」
「なにもせずに、ボタンがズレることはあり得ませんが」
「うるさい。してないと言ったらしていない。
これでもかなり我慢しているんだ……くそっ」