鬼常務の獲物は私!?
ベストを着終わっても振り向けずにいるのは、高山さんがなにを想像したのかが分かってしまったから。
そっか……ボタンが掛け違えているということは、一度外したということで、いかがわしいことをしていたと思われても、仕方ないのか……。
急いでいる様子の神永常務と高山さんは、恥ずかしがる私を置いて、同じ5階にある重役用の会議室へと歩き去った。
ふたりのスーツの背中を見送ってから、私も仕事に戻ろうと階段を下りる。
営業部のフロアに入ると、朝より半分ほどに人が減っていた。それぞれ担当する営業先へと、営業マンの皆さんが出掛けた後みたい。
自分のデスクに座ってホッとするやいなや、星乃ちゃんがやってきて、すぐに更衣室に連行されてしまった。
事務の制服は3組支給されていて、上にコートを羽織る季節になると、制服を家から着て出勤し、食事などの予定がない限りそのまま着替えずに帰る。
だから、今日も更衣室には用事がないのだけれど、どうして連れてこられたのか……。
その疑問を「はい」と手渡されたストッキングを見て理解する。
そうだった、転んで両膝が破れていたんだ。
このまま仕事を続けるのはかなり恥ずかしい。
気の利く星乃ちゃんに笑顔でお礼を言って、履き替える。
その最中、星乃ちゃんはずっと私を観察していて、唸りながらボソリと呟いた。
「ゔーん……激しい」
「え? なにが?」
「神永常務の愛撫が」
「あい……ええっ⁉︎」