鬼常務の獲物は私!?
恥ずかしさに顔を赤らめる私の気持ちは汲んでもらえることはなく、高山さんに黒いカバーで覆われたハンガー付きの服のようなものを渡された。
「あの、これは……?」
「福原さん用の、ビジネススーツでございます」
私用のビジネススーツと説明されても、わすます分からなくなる。
私は営業事務だから、理香ちゃんのようにビシッとスーツを着て外回りに出掛けることはなく、この制服しか必要ないのに……。
両手に持たされたビジネススーツに戸惑っていると、その上に名刺入れと黒いシンプルなショルダーバックまで乗せられた。
「さっさと着替えてこい。出掛けるぞ」と、後ろに神永常務の声がする。
「あの、もしかして……私はこれから外へ営業に出るのでしょうか……?」
渡された一式を見ればそれしか思いつかず、神永常務の方に振り向いて聞いてみる。
すると常務の口もとが、片側だけ吊り上がった。
「そうだ」
「え……」
「心配はいらない。営業部にはお前を借りる話がついているし、俺の隣でニコニコしていればいいだけだ」
心配はいらないと言われても、心に一気に不安が湧き上がる。
大事な仕事に私を同行させるなんて……常務は怖いもの知らずなんだ……。