鬼常務の獲物は私!?
創立記念と忘年会を併せたこの会の締めくくりは、社長の挨拶と、くす玉割りだと総務の人に聞いた気がする。
垂れ幕にはしっかりと、【祝 神永メディカル創立五十周年】の文字が書かれてあった。
これは大変なことをしてしまったと、慌てて足を引いたら、紙吹雪で滑らせ、転びそうになってしまう。
思わず手を伸ばして掴んだものは垂れ幕で、音を立てて破れた後に、くす玉本体まで落ちてきた。
プラスチックの半球が頭に当たり、衝撃と痛みでよろけた私は、ステージから転げるようにダイブしてしまう。
突っ込んだ先は一番近くの円卓で、瓶ビールが床に落ち、カニ爪揚げが宙を飛んで、大皿からは和牛や伊勢エビが逃げ出した。
ミスにミスが重なり、惨状を作り出してしまった私。
料理にまみれた顔をおそるおそる持ち上げると……すぐ側には社長がいて、椅子に座ったまま呆然としていた。
高級スーツは料理でドロドロ。
顔にはチリソースが跳ね、飾りとして添えられていた伊勢エビの頭が、社長の頭に乗っかっている。
そんな社長のふたつ隣の椅子には、息子である神永常務が座っていて、信じられないと言いたげに目を見開いていた。
や、やってしまった……。
これは、オフィスで転んだときなんかの比じゃないレベルの失態だ。
どうしようとオロオロすることもできず、全身から瞬く間に血の気が引く感覚を味わっていた。
もうダメだ……クビは決定的だ……。
呆然とする社長の顔も、驚く常務の顔も、なにも見えなくなる。
ショックのあまりに気が遠くなり、床に崩れ落ちた私は完全に意識を失ってしまった……。
「ん、ん〜……」
額にひんやりと心地いいなにかを感じて、眠りの中からゆっくりと意識が浮上する。
あくびをひとつして目を開けると、見知らぬ天井が視界に映った。
ここはどこだろう……。
左を見ると、木目のサイドテーブルと、色ガラスのシェードのベッドランプがある。
その向こうにはシングルベッドと、さらに奥にはレースのカーテンの引かれた窓があり、オレンジ色の光がうっすらと部屋に差し込んでいた。
体の上には毛布が掛けられていて、ベッドに横になっていることを理解する。
どうやらここは、ホテルのツインルームのようだけど……いつからここで寝ていたのだろうか……。
寝起きの上、訳が分からず、仰向けの姿勢のままで考え込む。
いつも以上に回らない頭で必死に状況を整理しようとしていたら、突然、右隣から低い声が聞こえてきた。
「なぜ、俺がいることに気づかない」